【便潜血で2回とも陽性!痔の確率は?】大腸癌ブログ
突然ですが、便潜血検査というものを受けたことはあるでしょうか?
便潜血検査というのは主に30歳~40歳以上になったら受診を推奨されている大腸がん検診の検査の名前です。
便潜血検査は2日法といって、便に含まれる微量な血液を2回採取して、その2回の結果が判定として出ます。
便潜血検査の判定は2回とも陽性の方、1回だけ陽性の方がいるのですが、それぞれ大腸癌の確率が違う事はご存知ですか?
また、痔がある方は、「どうせ痔のせいだろう」と思いがちですが、実はそれは完全に間違っていることを知っていましたか?
さて、今回のブログは便潜血検査のお話です。
国立がん研究センターのがん統計(1)によると日本では1年に15万人以上の人が大腸がんと診断され、5万人以上の人が大腸がんで命を落としています。
大腸癌の死亡数は、女性では1位、男性では3位となっており、大腸癌の死亡数の増加が増加しています。
便潜血検査で陽性になっても「痔のせいだろう」と思い込んで、精密検査である大腸内視鏡検査を受診しない方が多いことが死亡数が増加の原因の一つといわれています。
日本では、便潜血検査(大腸がん検診)の受診率が約4-5割と、これはイギリスやフィンランドの6-7割と比べると低い大腸がん検診の受診率(2)です。
さらに、便潜血検査で陽性となった方の精密検査の受診率は6-7割程度と低い精密検査の受診率が問題となっています。
つまり、せっかく大腸がん検診を受けたにもかかわらず、陽性になっても放置する人が3割以上もいるのです。
これは、胃がんや肺がんで放置する人が1-2割というデータと比較しても高い値です。
しかし、大腸がんは早期に発見したら、内視鏡治療などで9割以上の治癒が見込める病気なので、せっかく検査を受けたのに結果を放置するのは非常にもったいないのです。
大腸がん検診の精密検査を受けない理由を聞いた調査によると受診しない大きな理由が「痔のせいと思い込んでいる」ことです。
これは本当なのでしょうか? 便潜血検査で痔の確率は実際はどのくらいなのでしょうか?
また便潜血検査2日法で2回とも陽性になる方と、1回だけ陽性になる方がいますが、大腸癌の確率はそれによって変わるのでしょうか?
今回は、そのあたりを科学的根拠に基づいて世界一詳しく解説していきたいと思います!
それではどうぞ!(本稿は、消化器病専門医の中村孝彦医師が執筆しています)
下剤を飲まない大腸検査は
こちら
「便潜血検査のことを知ると大腸癌予防の重要性がわかります!」
- 便潜血で2回とも陽性!痔の確率は?
- 便潜血で2回とも陽性なら大腸癌の確率は?
- 便潜血で1回だけ陽性なら大腸癌の確率は?
- 便潜血の数値が300?見方を教えて!
- 便潜血検査2日法のキットの「おすすめ」の使い方
- まとめ
便潜血で2回とも陽性!痔の確率は?
便潜血検査で陽性(2回とも陽性、1回だけ陽性)になった方は、「まさか自分が大腸癌になるはずがない」という思い込みから「痔のせいなんじゃないか」と楽観的にとらえがちです。
これは社会心理学用語で「正常性バイアス」とよばれる、人間だれしも持っているもので、精神を正常に近い状態に保つために、実際の確率よりも甘い見積りをしてしまう心の作用です。
痔があると、便潜血検査で陽性になるのでしょうか?
結論からいうと、これは大きな間違いです。
Turenhoutら(3)による2855人の検討によると、痔がある人の便潜血検査の陽性率は6.7%、痔がない人の便潜血検査の陽性率は4.9%と痔の有無で便潜血検査の陽性率は統計的に差がないという結果でした。
また、7107人を対象とした国立がん研究センターと青森県の調査でも、痔がある人の便潜血検査の陽性率は5%、痔がない人の便潜血検査の陽性率は7%と、これも統計的には差がないという結果でした。
これはなぜでしょうか。
直感的には、痔がある人の方が便潜血検査の陽性率が高くなりそうですよね。
大腸がんや大腸ポリープからの出血は、腸の奥から出ますが、この時、便はドロドロの状態なので血液とよく混じります。
そのため、便全体に血液が刷り込まれた状態になるので、便潜血検査で検出しやすくなります。
しかし、痔からの出血は、肛門から最後に固まった状態の便が出る時に表面に付着するだけです。
便全体にまんべんなく刷り込まれるわけではないので、痔からの出血は便潜血検査では検出されにくいという結果になっています。
先の論文によると、痔のみで便潜血検査が陽性になる確率は、わずか1.8%という結果が出ています。
これは、100人に1-2人という数字ですから、ほとんど無視できるほど小さな確率です。
痔があるからといって、便潜血検査の結果を放置することは、非常に危険なことがわかります。
参考:痔に関しては以下をご参照ください。
便潜血で2回とも陽性なら大腸癌の確率は?
山地ら(5)の18,887人のデータセットを用いたシュミレーションによると、便潜血検査2日法における進行がんなどの浸潤傾向のある大腸癌の陽性率は以下のようになりました。
【便潜血検査2日法 1回だけ陽性】
60代男性 4.1%
60代女性 2.9%
【便潜血検査2日法 2回とも陽性】
60代男性 49%
60代女性 44%
これをみると、便潜血検査2日法で2回とも陽性であった場合は、1回だけ陽性であった場合の10倍以上もリスクが上がることがわかります。
2回とも陽性判定が出た方は、非常に高リスクなので、なるべく早く精密検査である大腸内視鏡検査を受診する必要があります。
絶対に放置はできません。
便潜血で1回だけ陽性なら大腸癌の確率は?
では、便潜血検査の2日法で1回だけ陽性の場合は、どうでしょうか。
先に挙げた山地ら(5)の報告によると、
1回だけ陽性でも、浸潤傾向のある大腸癌の陽性率は60代男性 4.1%、60代女性 2.9%と高い値です。
これは、早期大腸癌は含んでいないので、早期大腸癌を含めると、もう少し高い値になりそうです。
やはり1回だけ陽性でも、絶対に放置はできない確率であることが分かります。
以下はステージ毎の大腸癌の5年生存率(6)です。
5年生存率とは、そのステージと診断された後に5年間生存できる方の割合を示しています。
■ステージ毎の大腸癌の5年生存率
ステージⅠ 93.0%
ステージⅣ 33.4%
ステージⅠの早期で発見できると、5年生存率は93.0%とほとんどの方が長期予後を得られるのに対して、放置して手遅れになり例えばステージⅣになると、5年生存率は33.4%と、2/3の方が5年以内に命を落としてしまうことが分かります。
逆にいうと大腸癌は早期発見できると9割以上の完全治癒が目指せる病気なので、1回だけでも便潜血検査が陽性になったら精密検査である大腸内視鏡検査を受診しないと、命にかかわることもあるのです。
こちらの記事もご参照ください。
↓↓
便潜血の数値が300?見方を教えて!
一般的に広く健康診断などで用いられている便潜血検査のキットの判定は「陽性」か「陰性」で判定が出ます。
これはどういうことかというと、便に含まれている微量の血液を試薬で検出し、血液濃度がある一定濃度以上だと「陽性」と判定しているわけです。
この陽性基準は施設によっても微妙に異なりますが、100ng/ml相当l以上の血液を検出すると「陽性」と判定するのが一般的です。
約17万人を対象とした多施設共同研究の結果、上記のカットオフ値100ng/mlとした場合、感度は80.0%、特異度は92.1%でした。
一方で、定量法というのは、「陽性」「陰性」の2つの判定ではなく、検出した血液濃度の数値をそのまま表示する方法です。
では、便潜血検査の定量法の数値の見方を詳しく解説していきます。
定量法のメリットは、同じ「陽性」でも中リスクの人と高リスクの人のリスクの差が分かることです。実際にこの方法を導入している自治体などもあります。
魚谷ら(4)の73,955人を対象とした研究によると、便潜血検査2日法の2回分の定量の合計値が1,500ng/ml以上の人で、大腸癌が11.7%にみられました。
進行癌などの浸潤傾向のある癌のおよそ半数で、定量合計値が1,500ng/ml以上の値を示し、これは浸潤傾向のない早期癌や大腸ポリープよりも有意に多い結果(p<0.05)でした。
以下の通り、ちなみに便潜血検査2日法の2回分の定量の合計値が高いほど、大腸癌の陽性率(陽性反応的中率)が上がる結果となっています。
定量合計値1,000ng/ml以上 8.6%
定量合計値1,500ng/ml以上 11.7%
定量合計値2,000ng/ml以上 20.0%
便潜血検査の数値が300や1000の人と数値が100の人は、ともに定性法では「陽性」となりますが、300や1000の人の方が100の人よりも、リスクが高いことがわかります。
逆に定性法で便潜血検査の数値が50の人と数値が0の人は、ともに定性法では「陰性」となります。数値が0の人は進行がんのリスクが限りなく低いのに対して、数値が50の人ではリスクが残る結果となります。
便潜血検査2日法のキット【おすすめの使い方】
実は、便潜血検査のキットにはおすすめの使い方・やり方があります。
まず、溝のついたスティックの先端で便の表面をうすくこすり取るようなイメージで採取します。
ズボっと1カ所にスティックをいれて、便のかたまりを沢山取ろうとすると効果が半減するので要注意です。
検査日の朝の便で摂便することが理想ですが、便秘の方などで難しい場合は、なるべく直射日光のあたらない温度の低い場所で保管します。
室温で保管してしまうと、検体が変性して、本来陽性の結果が陰性になることがあるので注意してください。
便潜血検査は、集団検診を目的としたスクリーニング検査なので、1回分のキットだけでは進行がんの陽性率は5割程度と高くはありません。
そのため、日本での便潜血検査は2日法といって、2日分の便を提出することになっています。
【 まとめ 】
いかがでしたでしょうか。
今回は便潜血検査について詳しく解説しました。
今回のブログで述べたように痔があっても便潜血検査には、ほとんど影響がなく、痔がある人が便潜血検査が陽性になっても絶対に放置できず、大腸内視鏡検査を受けるべきということがわかりました。
また、便潜血検査2回法で2回とも陽性の人は高リスク(60代で44~49%)ですが、1回だけ陽性の方でも大腸癌の可能性は高い(60代で2.9~4.1%)という結果でした。
便潜血検査が陽性になったら、精密検査である大腸内視鏡検査の受診が必要です。
大阪の堺なかむら総合クリニックでは、胃カメラよりも細い極細径の大腸内視鏡検査を導入することによって、「楽な大腸内視鏡検査」を実現しています。
麻酔(鎮静剤)を使った内視鏡を行っているので眠っている間に検査は終わります。
女性の方で恥ずかしさから受診をためらっている方でも、常勤の女性医師が診療を担当しますので安心です。
また、眠っている間に下剤を飲まずに同時に胃カメラと大腸内視鏡検査ができる、下剤を飲まない大腸内視鏡検査も行っています。
便潜血検査で陽性になった方は、大阪の堺なかむら総合クリニックまでお気軽にご相談ください
堺なかむら総合クリニック 中村玲佳医師
また、痔でお悩みの方は、常勤の女性医師が診療を担当いたしますので、お気軽に受診ください。
■参考文献
(1)がん情報サービス
(4)魚谷知佳,他.免疫学的便潜血定量値からみた大腸癌危険群.日消集検誌 2003;41(6):588‐597.
(5)山地 裕,他. 大腸内視鏡検診の成績を用いた,便潜血検査陽性反応適中度推定のシミュレーション. 日本消化器がん検診学会雑誌 Vol.55(5), Sep. 2017